弁護士が独立するタイミング
では、弁護士が独立するタイミングについて解説します。
結論から言うと、独立するタイミングは「弁護士登録から5年後〜10年後」がベストです。
統計的観点も入れますと、2018年に日弁連が全国の弁護士を対象に行ったアンケート調査によると、登録5年未満の弁護士の占めるアソシエイト弁護士の割合が約67%であるのに対し、5年~10年のアソシエイト弁護士の割合は約28%と大幅に減少しています。
このデータから見ても、「登録から5年~10年経過した段階で独立している弁護士が多い」ことが分かります。
アソシエイト弁護士として弁護士キャリアをスタートさせた人は、数年勤務して独立してパートナー弁護士となる人が多いということですね。
ただし、弁護士登録後5年が経過すれば誰でも独立できると言えるわけではありません。
続きをご覧ください。
準備が整ってきた段階が独立のタイミング
厳密には、「独立の準備が整ってきた段階」が独立のタイミングです。
逆に言えば、5年が経過しても、独立の準備ができていなければ独立は難しいです。
5年〜10年が経過すれば独立の準備が大体整っているであろうということで「5年」と表現しています。
では独立するにあたっての必要な準備や考えておくべきことは何なのか、以下で解説します。
独立する上で考えておくべきこと・事前準備
では独立する上で事前に準備しておくべきこと・考えておくべきことについてまとめます。
独立する際には開業資金、ランニングコストの資金面での計画を立てる必要がありますが、それに加えて、独立開業後のビジネスプランも考えておくことが必要です。具体的には以下の通りです。
顧客確保の土台作り
顧客確保の見込みが立っているかどうかというのも独立する上で重要です。
独立すると、当然ながら事務所から割り振られる事件はありませんので、自分で仕事を獲得していかなければなりません。
弁護士の顧客確保はやはり人間関係によるところが大きいです。
アソシエイト弁護士として勤務している間に事務所事件の依頼者や顧問先の方と信頼関係を築いていれば、独立しても新しい事件を依頼してくれたり、依頼者を紹介してくれたりします。
さらに弁護士会の活動等を通じて、他事務所の先輩弁護士方との繋がりがあれば、その先輩弁護士が利益相反で受任できない場合などにあなたを紹介してくれたりもします。
アソシエイト弁護士として勤務しながら、あらゆる繋がりを築いておくことで、独立してからの顧客獲得の見込みが立つようになります。
開業資金の確保
開業資金の確保も必要です。
後でも述べますが、独立して新しく事務所を構えるには資金がかかります。
独立してしばらくは仕事が少なく収入が少なくなることが想定されますので、その間の経費も計算に入れておく必要があります。
事務員(パラリーガル)を雇うかどうか
法律事務所においてパラリーガルは、電話や来客の応対と弁護士への取次、裁判所などへの書面や証拠の提出、証拠書類等の整理、コピー、経理事務等、事務作業全般を担当します。
弁護士にとっては、書面作成や証拠の選別等の法律業務に専念するためには事務員はとても重要です。
しかし、当然ですが、事務員を雇うには人件費がかかります。
事務員は法律のことを知らない人でもできますが、できれば他の法律事務所での勤務経験があるなど、ある程度は手続きの流れなどを知っている人が良いでしょうが、そのような人材を雇うにはそれなりの人件費を覚悟しなければなりません。
独立当初は仕事がほとんどありませんので、仕事が安定するまでは事務員を雇用せずに事務作業も全部自分でやるというのも一つの選択肢としてありえます。
独立後の取扱事件の内容をどうするか
自分がどのような事件を取扱う弁護士になるかを練ることも重要です。
これは、それまで勤めていた法律事務所でどのような事件を扱ってきたかという、それまでのキャリアも影響します。
知財事件は企業法務ばかりを扱ってきた人は、自分のキャリアを活かすには、独立後もそういう事件を特化して取り扱った方が良いでしょう。
他方で、自分のできる範囲を拡大したいと思う人は、それまで全く扱ったことがない分野も取り組むようにするのもありでしょう。
その場合は、最初の内はその分野の弁護士会の研修を受けたり、委員会に参加したり、書籍を読んだりと、研究の時間が必要になります。
独立後の集客方法
上記の独立するタイミングのところで顧客獲得の見込みについてお話しましたが、独立時にある程度のつながりがあったとしても、やはりそれだけではすぐにたくさんの仕事が得られる可能性は低いです。
安定して仕事を得るためには、独立後の集客方法についても考えておく必要はあります。
まず、自分のホームページを作り、どのような事件を取り扱ってきたか、自分はどんな弁護士なのかなどの内容を盛り込んで、自分をアピールする必要があります。
資金に余裕があれば、駅の看板等のポスティングによる広告を出してみるのも良いでしょう。
最近では、テレビやラジオ等のメディアで宣伝活動をしている法律事務所もあります。
また、起業家の集まりや、異業種交流会等に参加していろいろな人と知り合うというのも一つの集客方法と言えます。
できれば、1回限りの会ではなく、月に1回や半年に1回など定期的に行われている会に参加して、自分の顔と名前を覚えてもらうことが大切です。
さらに、上記の取扱事件の内容とも関連しますが、弁護士会の研修や委員会に参加することも重要です。
近年の弁護士会では、どういう研修をどれだけ受けたかによって、法律相談や事件を優先的に回してもらえたりします。
弁護士会の法律相談を担当すれば、そのまま受任に繋がることも多々あります。
また、弁護士会の委員会活動に参加すれば、その分野の知識が深まるだけではなく、委員会の事件を共同で受任したり等の事件受任へとつながることもあります。
報酬基準をどうするか
弁護士報酬は、かつては弁護士会報酬規程に拘束されていましたが、現在は自由化されています。
そのため、事務所によって料金体系は異なります。
着手金無料で完全成功報酬型を採用している事務所もあれば、着手金を多めにして、その分報酬を低くするなどしている事務所もあります。
基本的には、旧弁護士会報酬規程を参考にしながら、自分の事務所ではどのような料金設定にするのかを考える必要があります。
家庭環境
最後に、自身の家庭環境も考慮する必要があるでしょう。
弁護士登録してから数年というのは、司法試験合格時の年齢にもよりますが、凡そ若くて20代後半から40歳前後くらいになります。
この間には、結婚や出産等で家庭環境もめまぐるしく変化するはずです。
そうした家庭環境も考慮してベストなタイミングを図る必要があります。
まとめますと、一人でできるというだけの経験・スキルの向上、顧客獲得の見込み、開業資金、家庭環境等の要素を踏まえて、独立にベストなタイミングを図る必要があります。
このように総合的に考えると、独立のベストな時期は人によって違いますので、よく考えてみてください。
独立に必要な資金
前述したように、独立するには資金が必要です。
- 新しく事務所を借りる場合は保証金
- 購入する場合は購入資金、事務所内の内装費用
- コピー機
- パソコン
- ソファやテーブル等の応接セット
- 仕事で使うであろう書籍の購入
等の初期費用がかかります。
日弁連が発行する「即独、早期独立開業マニュアル(第三版)」によると、開業資金としては、「自宅開業なら50万円、執務場所を自宅以外に求めるのであれば100万円~300万円あれば開業は十分可能である」とされています。
また、独立後しばらくは仕事がほとんどなく、経営が安定するまでのランニングコスト(賃料や人件費)を考慮しておく必要があります。
半年間くらいは仕事がなくても支払えるだけの資金を準備しておく必要があります。
どんな場所を借りるかで賃料は異なりますが、仮に月額10万円の物件を借りるとして、その他にも水道光熱費、コピー機のリース代や判例検索システムの月会費、弁護士会費等も含めて考えれば、最低でも月に20万円の経費がかかると想定して、半年分の120万円は準備しておいたほうが良いでしょう。
そうすると、先の開業資金と併せれば、200万円~400万円ほどは準備しておく必要があります。
ただ、賃料や内装費はどのような場所、内容にするか次第なので、もっとローコストで開業できる場合もありますし、逆にもっと費用がかかる場合もあります。
ご自身で、新しく事務所を構える場所の賃料相場を調べるなどして具体的にシミュレーションしておく必要があります。
手元の資金が不足する場合は、借入を行うことも視野に入れたいところです。
独立に失敗するケースや理由
独立に失敗する理由もあらかじめ把握しておくことで、廃業のリスクを回避することができます。
よくある独立失敗の理由は、
- 顧客確保がうまくできなかった
- 経験不足・能力不足だった
- 資金が回らなかった
などあらゆる要因が存在します。
独立に失敗しがちなよくある理由は、以下の記事で詳しくまとめているので、あわせてご覧ください。
退職する際に必要な手続きや円満退職のポイント
アソシエイト弁護士が独立開業するということは、それまで勤務していた法律事務所を辞めるということですので、どのようにして辞めるかということも大切です。
勤務していた事務所と円満な関係が築けていれば、退職後も事件を回してくれたりすることがあります。
なのでここでは、退職に必要な手続きや円満退職のポイントを押さえておきましょう。
口頭で「退職の意思を」「パートナーに」伝える
まず手続きについてですが、アソシエイト弁護士が辞めるために必要な手続きは特に複雑なことはなく、ただ「退職の意思を明確に表示する」でOKです。
退職意思を伝える先は基本的にはパートナー弁護士です。
口頭で伝えることが多いですが、はっきりと辞めるという意思を示した方が良いです。
「退職時期」「引き継ぎを行う旨」を伝える
また、その際には退職時期も明確にすべきでしょう。
通常、アソシエイト弁護士は、法律事務所の事件を20件~40件程度は抱えていることが多いです。
そのアソシエイト弁護士が明日突然辞めるとなったら、事務所は混乱します。
円満に退職するためには期間の余裕をもって、その間に他の弁護士に引き継ぐか、自分が独立後もそのまま引き継ぐかなど事務所と話し合えるようにしておくべきです。
一般的は、退職の6か月くらい前に退職の意思を示すことが多いように思います。
6か月程度あれば、引継ぎも十分に可能でしょう。
最低でも3か月程度はあった方が良いです。
こうして退職の意思を明確にし、かつ、期間の余裕をもって引き継ぎを行い、退職すれば、円満に退職できます。
これまでほとんどの弁護士はアソシエイト弁護士として事務所に勤め、独立して現在に至るという人が多いので、あなたが辞めると言ってもいやな顔をする先輩弁護士は少ないと思います。
自分が通ってきた道だからです。
注意事項
退職にあたっての注意事項が一点あります。
勤めていた前の事務所の悪評を言って、依頼者を引き抜くようなことは、信義に反します。
前の事務所への背信行為はやめましょう。
それまで勤務していた事務所の依頼者があなたのことを信頼してくれて、独立後にあなたに依頼して、受任すること自体は問題ありません。
あくまで他事務所との関係が悪くなるような行為・言動は控え、良好な関係を築けるようにしましょう。
独立支援を行う事務所で働くと独立しやすい
「独立したいが、具体的に何から始めれば良いのか分からない」
「独立が向いているのか分からない」
という方は、独立支援・独立歓迎を掲げる事務所で働いてみるのも選択肢の一つです。
独立を歓迎する事務所で働くと、以下のようなメリットがあります。
- 独立の手続きやノウハウを教えてくれる
- 顧客やクライアントの獲得の仕方を教えてくれる
- 独立のための退職申し出を気持ちよく迎えてくれる
独立サポートを受けながら収入を得ることができるので、一石二鳥です。
もし独立するまでの準備期間をまだ要する場合は、「独立歓迎」「独立支援」を掲げる法律事務所の求人・職場に転職するのはいかがでしょうか。
弁護士の求人サイトであるリーガルジョブボードでは独立支援・独立歓迎の弁護士求人を多数ご紹介できますので、ご興味があればお気軽にご連絡くださいませ。
今すぐの転職意思がなくとも構いません。
「転職するかどうか悩んでいる」「どのような求人があるのかだけチェックしてみたい」といった動機でも大歓迎ですので、リーガルジョブボードをぜひご活用ください。
弁護士は転職エージェントを活用すると内定が出やすい理由
もし転職する場合、内定の可能性をグッと上げたい場合は、転職エージェントの活用が必須です。
転職エージェントとは、弁護士業界に詳しいエージェントがあなたのスキルや資質を見極め、活躍できる・ミスマッチのない職場の求人を紹介してくれるサービスです。
また求人紹介だけでなく、以下のサポートも無料で行ってくれます。
- 選考突破のための書類・面接対策の徹底
- 今のあなたが転職で実現できうる推定年収の算出
- キャリアパスの策定やご相談
- 求人の職場口コミやブラック度の情報提供
上記以外にも、転職エージェントを活用することで得られるメリットはかなり多くあるので、気になる方は以下の記事もあわせてご覧ください。
弁護士専門の転職エージェントであるLEGAL JOB BOARD(リーガルジョブボード)では前述したように「独立歓迎の求人のご紹介」が可能です。
ご登録いただくと、ウェブサイトには掲載されていない、登録者限定の「非公開求人」を数多くご紹介いたします。
いま転職活動中の方、転職をうっすらと考えている方、どんなご相談にも乗りますのでお気軽にご連絡くださいませ。
※お急ぎの方は右下のチャットもしくはお電話(03-6774-8902)でも承ります!