企業法務弁護士の役割
まず、企業法務弁護士の役割について解説します。
民事事件や刑事事件を担当する一般的な弁護士に対し、企業法務弁護士は法律事務所に所属しながら「企業を相手とした法律業務」を担い、リーガルアドバイスや予防法務、また紛争対応などを行います。
顧問弁護士として企業からの相談を受けながら、法的観点からのアドバイザーとなり顧問料をいただくというモデルです。
企業内弁護士(インハウスローヤー)との違い
企業法務弁護士に少し似たような言葉の職種で「企業内弁護士(インハウスローヤー)」があります。
企業内弁護士は「企業に属し」「社員として」その企業の案件のみを処理するのに対し、企業法務弁護士は「法律事務所に所属して」「顧問弁護士として」複数の企業と顧問契約を結び、業務を引き受けます。
企業法務弁護士はあくまで外部アドバイザーであり、企業内弁護士は内部の人間として事業や新規プロジェクトを法的観点から前進させていく役割となります。
企業法務弁護士は基本的に「同時に複数の企業を担当する」ことに対し、企業内弁護士は所属する企業にのみアサインすることになります。他の企業の法的業務を引き受けることはありません。
また業務内容や役割以外の違いでは、「年収」や「ワークライフバランス(残業)」にも違いがあります。
企業法務弁護士は法律事務所に所属するので、「高年収」「ハードワーク」となるけーすがあります。
一方で企業内弁護士は企業に属するので、「福利厚生が充実」「ワークライフバランスが整っている」ことが特徴です。
どちらにもメリット・デメリットがあるので、あなたが実現したい働き方や待遇をもとにキャリアを選択しましょう。
企業法務弁護士の業務内容
では、企業法務弁護士の業務内容を具体的に解説します。
企業法務弁護士として就職・転職した場合、以下のような業務を担うことになります。
M&A
企業法務弁護士の業務内容として「M&A」があります。
M&Aとは「企業の合併や買収」を指します。
一口に「M&A」と言っても「株式譲渡」「株式移転」「合併」などさまざまなパターンがあり、企業の利益が発生するよう手段を選ぶ必要があります。
M&Aを行うにあたり、買収先の価値や経営状況などを調査することが企業法務弁護士のミッションとなります。
その他スケジュール管理、交渉項目の整備など無事成立させるためには多くの仕事があり、専門知識を要します。
知的財産
知的財産は、企業が独自に作り上げたモノ(アイディアや技術、サービスなど)を指します。
知的財産は他社や競合に奪われないよう、守らなければなりません。
そのために必要となるのが知的財産に関する業務です。特許権・商標権・著作権など多彩な内容に及びます。
例えば企業の持つ権利を侵害された場合の訴訟などの業務です。
特許権に関しては理系の知識が要求されるなど高度な専門性を有します。
銀行・金融
銀行やノンバンク・リース会社等が企業として運営していくにあたり必要となる分野です。
金融規制法(金融商品取引法、銀行法、保険業法等)や金融庁その他の行政庁の策定する監督指針、ガイドライン等など金融法務に関する幅広い知識が必要です。
金融機関での実務経験がある場合は有利に働きます。
キャピタルマーケット
法人が有価証券を国内外の市場に発行することで行う資金調達、株式公開買い付けやストックオプションなどにまつわる業務です。
企業が成長していくうえで非常に重要な業務ですが、どの業務もコンプライアンスに十分に配慮して進める必要があり、専門性が高い分野です。
危機管理・不祥事対応
企業において重大な事件や不祥事が発生した場合、迅速かつ的確な対応をとって影響を最小限にしなければなりません。
第三者委員会設置やマスコミ対応などがその一例です。
SNS隆盛の時代、このような対応の経験が豊富な弁護士のニーズは高まっています。
不動産取引
不動産の売買や賃貸といった基本的な取引から大規模施設の開発や不動産投資・ファイナンスなど業務は多岐にわたります。
特に法律関係が複雑に絡んだようなケースでは専門知識を有する弁護士が必要となることが多いです。
ジェネラル・コーポレート
企業法務としては最も基本的な業務ですが、企業が日常的に運営していくなかでおろそかにできないものばかりです。
例としては各種契約書の作成・確認、労務対応、株主総会運営、コンプライアンス対応などです。
法的知識だけでなくクライアントのニーズに沿った提案や問題解決をする能力が求められます。
企業法務弁護士の年収
企業法務弁護士の平均年収は約1,000万円です。
五大弁護士事務所など、大手事務所に所属する弁護士の場合、年収は新人でも1,000万円以上となります。
実務や海外留学など、様々な経験を積んで役職がつくとさらに昇給し、中堅クラスで2,000万円~3,000万円前後の給与になると言われています。それよりもさらに高い年収の弁護士もいます。
一方で中小規模の法律事務所に所属する弁護士の場合ですと、平均年収は600万円~1,000万円前後となります。
ちなみに、年収が必ずしも規模に比例するというわけではありません。キャリアを積みクライアントを増やすという努力次第で、中小規模の事務所でも平均年収を大きく上回ることは珍しくありません。
企業法務が経験できる職場
続いて、企業法務が経験できる職場を解説します。
五大法律事務所
五大法律事務所は、個人の民事事件や刑事事件よりも企業の法務を中心とした業務を行っており、一般民事事件のスキルを習得できないデメリットはありつつも、企業法務の専門的スキルが身につき、クライアントは大企業が多く難易度の高い案件に携われることができます。
大手企業からのM&A案件や・プロジェクト案件等に関与できる機会に恵まれています。
就職・転職するには高いスキルを持ち狭き門を突破する必要はありますが、今後のキャリアを強くするでしょう。
五大法律事務所は以下です。
- 西村あさひ法律事務所
- アンダーソン・毛利・友常法律事務所
- 長島・大野・常松法律事務所
- 森・濱田松本法律事務所
- TMI総合法律事務所
以上の事務所を以下で簡単に解説していきます。
西村あさひ法律事務所の得意領域は銀行・金融、不動産取引、M&Aなどです。
弁護士数 598名 (パートナー/法人社員 166名、オブカウンセル 7名、カウンセル/法人カウンセル 56名、アソシエイト 365名、フォーリンアトーニー/法人フォーリンアトーニー 49名)
国内では最大手の法律事務所であり、渉外系事務所としてもトップクラスです。
高度な専門知識を持った弁護士が在籍し、どの分野でも高い法律サービスを提供しています。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所の得意領域は銀行・金融、キャピタルマーケット、危機管理・不祥事対応などです。
弁護士数 488名(パートナー 158名、スペシャル・カウンセル 18名、アソシエイト 286名、顧問 13名、客員 3名)、シニア・フォーリン・カウンセル 7名 (内、外国法事務弁護士 6名)、顧問/外国法事務弁護士 1名、外国弁護士 32名 (内、外国法事務弁護士 1)、
元々アメリカ人のジェームス・ビュウェル・アンダーソン弁護士が設立した事務所ということもあり海外から最も高い評価を受ける法律事務所です。外資系企業が日本に進出する際に業務を依頼されることも多く、他の大手事務所とも渉外面では一線を画しています。
長島・大野・常松法律事務所の得意領域は銀行・金融、キャピタルマーケットなどです。
弁護士数 501名(日本弁護士461名、外国弁護士40名)
国際案件も多く、案件ごとに弁護士・スタッフが緊密な連係をもって対応にあたり、一体感をもって取り組むことが特徴です。弁護士の個の強さよりもチームで安定した業務処理を行っている、堅実な事務所だと評判です。
TMI総合法律事務所の得意領域は特許・商標・著作権などの知的財産権分野です。
弁護士人数 449名 外国法事務弁護士 7名 外国弁護士 28名
設立は1990年と比較的新しい事務所ですが、所属弁護士が増加し大規模事務所の仲間入りを果たしました。知的財産権に関する業務では「知財のTMI」と呼ばれるほど経験と実績を有しており、クライアントも多数抱えています。
森・濱田松本法律事務所の得意領域は銀行・金融、M&A、キャピタルマーケットなどです。
弁護士246名、外国弁護士11名
他の大手法律事務所が国際的な渉外案件を手がけ成長していったのに対し、森・濱田法律事務所は前身が国内系法律事務所であったということもあり、訴訟問題など裁判関連の業務では国内随一の実力をもっています。
準大手法律事務所
準大手法律事務所も、企業法務弁護士を経験できます。
準大手法律事務所は以下です。
- シティーユーワ法律事務所
- 大江橋法律事務所
- 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
- ベーカー&マッケンジー法律事務所外国法共同事業
それぞれの特徴を簡単に解説しておきます。
シティーユーワ法律事務所の得意領域は訴訟紛争、不動産ファイナンス、M&A分野です。
弁護士数157名、外国弁護士4名在籍しています。
伝統的な業務を堅実に行う事務所です。
大江橋法律事務所の得意領域は、幅広い企業法務を扱いながらもコーポレート、M&A分野です。
弁護士が131名、外国法事事務弁護士5名、外国弁護士1名在籍しています。
大阪4大事務所の一角であり西日本最大の事務所です。
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業の得意領域はファイナンス(アセットファイナンス、ストラクチャードファイナンス等)、キャピタルマーケッツ、プロジェクトファイナンス、インフラ・エネルギー・資源、PPP・PFI、ファンド、M&A分野です。
弁護士119名、外国法事務弁護士10名、外国弁護士5名在籍しています。
ベーカー&マッケンジー法律事務所外国法共同事業の得意分野はM&Aです。
弁護士105名、外国法事務弁護士19名、外国弁護士12名が在籍しています。
外資系法律事務所
外資系法律事務所とは、外国法律事務所の傘下にある法律事務所のことです。
外資系法律事務所は、クランアントとしては日系企業・外資系企業ともにあるのが一般的です。
依頼の9割程が外資系企業という事務所もあれば、半数が日系企業からの依頼という事務所もあります。
この比率によって習得できるスキルが異なります。例えばクライアントが外資系企業である場合は、M&Aでもアウトバウンド案件が多くを占めるため日本国内法が適用されます。
そのため国内法の知見や実務経験を積めます。
インバウンド案件の経験値を積みたい場合は、日系企業が多い外資系法律事務所が良いでしょう。
また、やはり英語を使用するためビジネス英語の実務経験が積めます。
英語漬けの環境を経験したい方にはお勧めです。
ブティック系法律事務所
ブティック系法律事務所とは、特定分野に強みを持って業務を行う法律事務所のことです。
五大法律事務所などの大手法律事務所は金融・知的財産・M&Aなどさまざまな企業法務をカバーしていますが、ブティック系法律事務所は得意な分野を専門で取り扱うことで大手事務所に劣らないリーガルサービスを提供しています。
就職・転職の面からみると、五大法律事務所に比べると採用されやすく、企業法務が未経験でも入所できる法律事務所もあります。
専門的知識を身につけキャリアアップを図ることができることや、5大出身の弁護士が独立した弁護士が立ち上げた事務所も多く、業務の質の高さは大手法律事務所に劣らないため、転職希望の弁護士からも人気を集めています。
中堅・中小法律事務所
五大、準大手に続き弁護士10名~99名以内までの規模を一般的に中堅法律事務所と呼びます。
五大、準大手、外資系法律事務所との違いは、部署制でないことから多様な案件(さまざまなタイプのクライアント)に関与できる機会に比較的恵まれている事務所が多いでしょう。
顧問先も商社・製造・金融・サービス・ITを幅広く、規模は、東証一部上場会社の従業員数 数万人の顧問先から数人の顧問先まであります。
また、企業法務のみ行う事務所から、民事、刑事などさまざまな分野の業務に携われる事務所、個人受任もOKという事務所もあります。
幅広い業務を行いたいという弁護士の方はこういった法律事務所に転職すると良いかもしれません。
企業法務弁護士に求められる条件やスキル・実務経験
続いて、企業法務弁護士に求められる条件やスキル・実務経験について解説します。
ビジネス的な視点を持っていること
民事や刑事を担当している弁護士の場合、個人のクライアントに対して業務を行うということも多いかもしれませんが、企業法務弁護士の場合はクライアントが企業ですから、会社にとって最善の提案、問題解決をしていかなければなりません。
そのなかで交渉力や提案力、コミュニケーション力が求められることもあるでしょう。単に法律に詳しいというだけでなく、ビジネスという観点から事案を処理する能力が必要です。
正確かつ迅速な業務ができること
あらゆる業務をミスなく正確にこなすというのは当然のことですが、企業法務の場合は民事・刑事事件よりも圧倒的にスピードが要求されます。
企業を取り巻く状況というのは刻一刻と変化していきます。契約書のチェックが少し遅れただけで契約不成立となってしまうこともあるのです。
数多くの企業の案件を抱えつつもスピーディーに、正確に業務を進められる能力が必要です。
専門的な法務知識
業種によって、日々の法律相談は異なります。
関連業法の切り口からみると、金融企業系では、金融商品取引法に関しての法律相談がメインなのに対して、IT企業では、個人情報保護法・著作権・商標法・プロバイダ責任制限法に関しての法律相談がメインです。
様々な分野での法律知識が必要となり、更に常に最新の情報を取り入れていかなければなりません。
企業法務弁護士のメリット
企業法務弁護士のメリットは、民事や刑事では経験できないビジネスサイドの業務が幅広くあることや、自分が強みとする専門分野を持てる可能性があることです。
企業法務弁護士のキャリアを積んでおくと、企業内弁護士(インハウスローヤー)への転職が有利になります。
そのため、法律事務所だけでなく企業へのキャリアステップも融通がきくようになります。
企業は法律事務所に比べてワークライフバランスが整っており、福利厚生も充実しているので、働き方をプライベート重視にシフトしたい場合はおすすめです。
企業内弁護士を採用したい企業は数多くあるので、企業法務弁護士のキャリアを積んでおくことで将来的な転職先の幅が広がることでしょう。
企業法務弁護士のデメリット
企業法務弁護士の業務内容自体は幅広いですが、自身の担う範囲が限られてくると、なかなか広く実務経験を積むことができません。
とはいえ、担い過ぎればそのぶんハードワークとなるため、プライベートとのバランスが取りにくくある傾向にあります。
企業法務弁護士にだけ言えることではないですが、法律事務所に所属する場合そもそもワークライフバランスは整いにくいため、時には体力的にも精神的にも追い込まれる場合があります。
企業法務弁護士に就職・転職する方法
企業法務弁護士として実際に働き始めるにはどうしたら良いか、ここから解説します。
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